
「朝の会で一人だけ席を離れてしまう」
「一斉に声をかけても動き出せない」
「遊びから片付けへの切り替えが難しい」
「行事や集団遊びに参加しようとしない」
幼稚園や保育園からこのような話を聞くと、保護者の方は「このままで小学校へ入学できるのだろうか」「発達に問題があるのではないか」と不安になるかもしれません。
しかし、集団行動が苦手であることだけで、発達障害と判断することはできません。
一斉指示を聞き取ることが難しい、次に何をするのか分からない、大きな音や人の多さに疲れる、活動内容が難しい、自分の気持ちを言葉で伝えられないなど、同じように見える行動にも、さまざまな背景があります。
大切なのは、「なぜ、みんなと同じことができないのか」と責めることではありません。
「この子は、どの場面で困っているのか」
「何が分かりにくいのか」
「どのような支援があれば参加できるのか」
を具体的に考えることです。
目標は「全員と同じにすること」ではない
集団生活では一定のルールが必要ですが、未就学児支援の目的は、すべての子どもを同じ速度、同じ方法で動かすことではありません。
目標は、子どもが次に行うことを理解し、安心した状態で、自分に可能な形から集団へ参加できるようにすることです。
厚生労働省の「保育所保育指針」でも、子どもの発達過程を理解し、一人ひとりの個人差に十分配慮して保育することが求められています。また、子どもが安心感と信頼感を持って活動できる環境を整えることも重視されています。厚生労働省「保育所保育指針」
それでは、幼稚園や保育園で集団行動が難しい未就学児に対して、どのような支援が考えられるのでしょうか。
1.「できない行動」ではなく、行動の前後を観察する
最初に行いたいのは、子どもの行動を具体的に観察することです。
「落ち着きがない」「集団行動ができない」という表現だけでは、適切な支援方法を見つけることができません。
次の三点に分けて記録します。
- 行動の直前に何があったか
- 子どもが具体的に何をしたか
- その直後に周囲がどう対応したか
例えば、次のように記録します。
「片付けの音楽が鳴った」
「耳をふさぎ、部屋の外へ走っていった」
「先生が静かな場所へ連れていった」
この場合、「片付けたくない」のではなく、音の大きさや突然の切り替えに困っている可能性があります。
別の子どもは、制作活動が始まると席を離れるかもしれません。その場合は、手先を使うことが難しい、説明が理解できない、失敗への不安が強いなど、異なる背景が考えられます。
行動の前後を分析し、その行動が「休みたい」「助けてほしい」「分からない」「注目してほしい」といった何らかの意思表示になっていないかを考える方法は、機能的行動評価や肯定的行動支援の基本です。
Dudaらが地域の保育施設で行った研究では、行動の背景に基づいて支援計画を立て、保育者が実施した結果、対象となった幼児の困難な行動が減少し、活動への参加が増加しました。Duda et al., 2004
2.絵や写真で「次にすること」を見せる
未就学児の中には、耳から入る言葉だけでは、活動の順番を理解しにくい子どもがいます。
その場合には、写真、絵カード、イラストなどを使った視覚支援が有効です。
例えば、朝の流れを、
「登園する」
「かばんを置く」
「手を洗う」
「自由遊び」
「朝の会」
という写真や絵で示します。
終わった活動のカードを外すようにすると、「今、何をしているのか」「次は何をするのか」「いつ終わるのか」が分かりやすくなります。
最初から一日分をすべて見せる必要はありません。理解しやすいように、まず二つか三つの活動から始めます。
「先に片付け、その後に好きな遊び」という順番を、「先に」「次に」の二枚のカードで示す方法もあります。
Knightらの研究レビューでは、視覚的な活動スケジュールは、適切な教え方と組み合わせることで、活動への参加、自立した行動、行動の切り替えなどを支える根拠のある方法と評価されています。Knight, Sartini & Spriggs, 2015
ただし、絵カードを壁に貼っただけでは理解できない子どももいます。最初は大人が一緒にカードを確認し、実際の行動と結び付ける練習が必要です。
3.活動の切り替えを突然行わない
自由遊びに集中している子どもに、突然「終わりです。片付けましょう」と伝えても、すぐに気持ちを切り替えられない場合があります。
そのような子どもには、事前に終わりを予告します。
「あと5分で片付けます」
「あと2分です」
「このブロックを置いたら終わりです」
というように、段階的に知らせます。
タイマー、砂時計、音の小さな合図などを使う方法もあります。ただし、音に敏感な子どもには、音の大きなタイマーは適さない場合があります。
また、「自分で終わる場所を選べるようにする」ことも有効です。
「あと1回滑ったら終わる、それとも、あと2回にする?」
「赤い箱と青い箱、どちらから片付ける?」
このように、活動そのものを拒否する選択ではなく、取り組み方を選べるようにします。
活動前の予告、選択肢の提示、課題量の調整などは「先行条件に基づく支援」と呼ばれます。自閉スペクトラム症の子どもを対象とした大規模な研究レビューでも、視覚支援、先行条件への介入、課題分析、強化、機能的コミュニケーションなどが、根拠のある支援方法として整理されています。Hume et al., 2021
4.指示は短く、一つずつ、肯定的に伝える
集団への指示には、複数の行動が含まれていることがあります。
「おもちゃを片付けて、トイレへ行って、帽子をかぶって外に並びましょう」
この指示には、少なくとも四つの行動が含まれています。言葉の理解やワーキングメモリに負担がかかる子どもは、最初の指示だけ、あるいは最後の指示だけしか残らないことがあります。
その場合は、
「おもちゃを箱に入れよう」
「次はトイレです」
「帽子をかぶろう」
と、一つずつ伝えます。
「走らないで」ではなく「ゆっくり歩こう」、「立たないで」ではなく「椅子に座ろう」というように、してほしい行動を具体的に伝えることも大切です。
子どもの名前を呼び、近くで短く伝え、必要に応じて絵や実物を見せます。その後、すぐに指示を繰り返さず、子どもが理解して動き始めるまで数秒待ちます。
目を合わせることを無理に求める必要はありません。視線を合わせていなくても、言葉を聞き、内容を理解している子どもはいます。
5.困った行動の代わりになる「伝え方」を教える
泣く、床に寝転ぶ、逃げる、物を投げるといった行動は、言葉で伝えられない気持ちを表していることがあります。
そこで、困った行動を叱って止めるだけではなく、代わりに使える伝え方を教えます。
- 「手伝って」
- 「分からない」
- 「休みたい」
- 「もう一回」
- 「終わり」
- 「静かなところへ行きたい」
言葉で伝えることが難しい場合は、絵カード、指差し、簡単な身振りでも構いません。
CarrとDurandは、困難な行動の背景にある目的を調べ、その目的を満たす適切な伝え方を教える「機能的コミュニケーション訓練」によって、対象児の行動上の問題が減少することを報告しました。Carr & Durand, 1985
重要なのは、子どもが大きく混乱してから教えるのではなく、落ち着いているときに練習することです。
そして「休みたい」と適切に伝えられたときには、まず短い休憩を認めます。伝えても要求が全く受け入れられなければ、子どもは再び泣く、逃げるといった方法へ戻ってしまいます。
6.参加の目標を小さく設定し、できた瞬間を認める
朝の会に10分間参加できない子どもに、最初から最後まで座ることを求めると、失敗経験が増えてしまいます。
最初は、
- 名前を呼ばれたときだけ返事をする
- 30秒だけ椅子に座る
- 歌の最初だけ参加する
- 一つの活動が終わったら休憩する
という小さな目標から始めます。
できたときには、「偉いね」だけではなく、「椅子に座って先生のお話を聞けたね」「自分で片付けの箱に入れられたね」と、何ができたのかを具体的に伝えます。
子どもの好きな遊び、シール、先生とのやり取りなどを、達成後の楽しみとして活用することもできます。ただし、ご褒美で無理に従わせるのではなく、「できた行動を分かりやすく認め、次の成功につなげる」という考え方が重要です。
成功が安定してきたら、30秒から1分、1分から2分というように、少しずつ参加時間や課題量を増やします。
7.いきなり大集団へ入れず、小さな集団から練習する
大人数の中では動けない子どもでも、大人と一対一、あるいは友達一人との活動なら参加できることがあります。
最初は、
「大人と子ども」
「子ども二人と大人」
「三、四人の小集団」
「クラス全体」
というように、段階的に集団を広げます。
穏やかに関われる友達と一緒に、ボールを渡す、同じ材料で制作する、順番にカードを取るなど、役割の分かりやすい活動から始めます。
友達との自然な関わりを支援に取り入れる方法は、仲間を介した支援と呼ばれます。インクルーシブな就学前教育を対象としたStrainとBoveyの無作為化比較試験でも、仲間との関わりを含む体系的な支援によって、自閉スペクトラム症の幼児の社会性やコミュニケーションなどに改善が示されました。Strain & Bovey, 2011
ただし、特定の友達に支援役を任せ過ぎないことも大切です。関わりは必ず大人が調整し、双方の子どもにとって楽しい活動にします。
8.感覚的な負担と身体の状態を確認する
集団活動では、話し声、音楽、照明、におい、身体の接触など、多くの刺激が同時に入ります。
次のような様子がある場合は、感覚的な負担も考えます。
- 音楽が始まると耳をふさぐ
- 人が多い場所から逃げる
- 制作物の感触を嫌がる
- 友達と身体が触れると強く怒る
- 行事の練習後に極端に疲れる
対応としては、出入口に近い席を用意する、音量を下げる、短時間だけ静かな場所で休めるようにする、活動前に身体を動かす時間を入れるなどが考えられます。
ただし、感覚への支援は、すべての子どもに同じ効果があるわけではありません。「この方法が発達特性のある子どもに良い」と一律に決めず、その子の行動が実際に安定するかを観察します。
睡眠不足、空腹、便秘、体調不良、聴力の問題などが集団参加に影響していることもあります。急に行動が変化した場合は、生活や健康の状態も確認する必要があります。
家庭と園で「一つの目標」を共有する
家庭と園で異なる対応を行うと、子どもは何を求められているのか分かりにくくなります。
最初から多くの課題を改善しようとせず、まず一つの目標を共有します。
例えば、
「片付けの2分前に絵カードを見せる」
「片付けが終わったら好きな遊びを選ぶ」
「『手伝って』のカードを使えたら、すぐに援助する」
というように、誰が見ても分かる行動として決めます。
家庭では、幼稚園や保育園の場面を想定した短いごっこ遊びを行うこともできます。ただし、長時間練習する必要はありません。2、3分程度で成功できるところまで行い、「できた」という感覚で終わります。
園と家庭では、次の四点を共有すると支援しやすくなります。
- 難しさが表れやすい場面
- 行動の前に見られる小さなサイン
- 効果のあった声かけや視覚支援
- 参加できた時間や条件
他の子どもと比較するのではなく、その子自身の変化を記録することが大切です。
相談や発達評価を検討した方がよい場合
集団行動が苦手だからといって、すぐに診断が必要になるわけではありません。
一方で、次のような場合には、園だけで抱え込まず、専門機関への相談を検討します。
- 集団生活への参加が難しく、本人の苦痛が強い
- 逃走、自傷、他児への攻撃など安全上の問題がある
- 言葉の理解や意思表示にも大きな難しさがある
- 家庭や園など、複数の場面で生活に支障が出ている
- 聴力や感覚面に気になる様子がある
- 以前できていた言葉や行動が失われた
- 園と家庭で工夫しても改善が見られない
かかりつけの小児科、自治体の発達相談、児童発達支援事業所などへ相談し、必要に応じて発達検査や言語・聴力などの評価につなげます。
発達のチェックリストは、診断を行うものではありません。しかし、保護者や園が感じた心配を整理し、早めに専門家へ伝えるためには役立ちます。CDCも、発達上の心配や、それまでに獲得した技能の消失がある場合には、待たずに医師や専門家へ相談することを勧めています。CDC「Developmental Milestones」
「できない子」ではなく、「支援の方法がまだ合っていない子」
未就学児が集団行動をうまく取れないとき、子どもだけを変えようとすると、叱責や失敗経験が増えてしまいます。
しかし、活動の見せ方、伝え方、環境、参加時間、助けを求める方法を変えることで、子どもの行動が大きく変わることがあります。
「集団行動ができない子」なのではなく、「現在の集団参加の方法が、その子の理解や発達段階に合っていない」と考えることが、支援の出発点です。
小金井市で未就学児の発達相談・療育を探している保護者の方へ。武蔵小金井・前原町の発達支援・フリースクールSproutsでは、一人ひとりの行動を丁寧に観察し、言葉の理解、指示行動、着席、活動の切り替え、意思表示などを個別に確認します。
子どもを無理に集団へ合わせるのではなく、安心して参加できる小さな成功を積み重ねること。その積み重ねが、幼稚園・保育園での生活、そして小学校入学後の学びと人間関係を支える力につながっていきます。
参考文献
1.Hume, K. et al.(2021)Evidence-Based Practices for Children, Youth, and Young Adults with Autism: Third Generation Review. Journal of Autism and Developmental Disorders, 51, 4013–4032.
論文全文
2.Knight, V., Sartini, E., & Spriggs, A. D.(2015)Evaluating Visual Activity Schedules as Evidence-Based Practice for Individuals with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders, 45, 157–178.
論文情報
3.Carr, E. G., & Durand, V. M.(1985)Reducing Behavior Problems Through Functional Communication Training. Journal of Applied Behavior Analysis, 18, 111–126.
論文全文
4.Duda, M. A., Dunlap, G., Fox, L., Lentini, R., & Clarke, S.(2004)An Experimental Evaluation of Positive Behavior Support in a Community Preschool Program. Topics in Early Childhood Special Education, 24, 143–155.
論文情報
5.Strain, P. S., & Bovey, E. H.(2011)Randomized, Controlled Trial of the LEAP Model of Early Intervention for Young Children With Autism Spectrum Disorders. Topics in Early Childhood Special Education, 31, 133–154.
論文情報
6.厚生労働省「保育所保育指針」
厚生労働省公式ページ
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