
「言っていることは分かっているようなのに、言葉がなかなか出てこない」
「そのうち自然に話し始めるので、まだ様子を見てもよいのでしょうか」
小金井市で未就学児の療育や発達相談に取り組むスプラウツにも、言葉の表出に関するご相談があります。
言葉の発達には大きな個人差があります。確かに、特別な訓練を受けなくても、成長とともに言葉が増え、同年代の子どもに追いつくケースはあります。しかし、すべての子どもが自然に追いつくわけではありません。
最初に結論を申し上げると、「何もしなくても大丈夫」とも、「遅れているなら直ちに反復訓練が必要」とも一律には言えません。
必要なのは、言葉の数だけで判断せず、言葉の理解、身振り、共同注意、遊び、聴力、対人関係などを総合的に評価し、その子に合った支援を選ぶことです。
■「言葉が出ない」だけを見てはいけない
言語には、大きく分けて二つの側面があります。
一つは、人の言葉を聞いて理解する「受容言語」。もう一つは、自分の考えや要求を言葉で伝える「表出言語」です。
表出言語が遅れていても、「持ってきて」「靴を履こう」などの日常的な指示を理解できる、指差しや身振りで意思を伝えられる、大人の動作をまねる、一緒に絵本や遊びを楽しめる子どもは、表出だけがゆっくり育っている可能性があります。
反対に、言葉が少ないことに加えて、呼びかけへの反応が乏しい、簡単な指示が理解しにくい、指差しをしない、大人が指した方向を見ない、模倣や見立て遊びが少ない場合には、表出だけではなく、言語理解や社会的コミュニケーションの土台も確認する必要があります。
国立障害者リハビリテーションセンターも、1歳6か月頃の確認点として、アイコンタクト、呼名反応、模倣、共同注意、指差し、見立て遊びなどを挙げています。言葉は、こうした「人と気持ちや関心を共有する力」の上に育つからです。国立障害者リハビリテーションセンター「健診での気づき」
■自然に追いつく子どもは、どのくらいいるのか
米国言語聴覚協会(ASHA)の資料によると、言葉の出現が遅い幼児の約50~70%は、就学前から学齢期までに同年代へ追いつくと報告されています。
一方、言葉の遅れがあった子どものうち、7歳時点でも言語面の困難が確認された割合は20%で、遅れのなかった子どもの11%より高いという追跡結果も示されています。表面上は追いついたように見えても、後に語彙、文法、物語を組み立てる力、読み書きなどで弱さが現れる場合があります。ASHA「Late Language Emergence」
つまり、「話し始めたから、すべて解決した」とは限りません。
また、将来追いつく子どもを、幼い段階で完全に見分けることは困難です。そのため、「様子を見る」という判断をする場合も、何もせずに半年、一年と待つのではなく、言葉の増え方や理解、身振り、遊びの変化を定期的に確認する必要があります。
■自然に追いつく可能性を考えやすい姿
次のような姿が複数見られる場合は、理解やコミュニケーションの土台が育っており、表出が後から伸びてくる可能性があります。
・日常的な言葉や簡単な指示を理解している
・指差し、視線、身振りで意思を伝えようとする
・大人の動作や音声をまねようとする
・人と一緒に遊ぶことを楽しむ
・見立て遊びやごっこ遊びがある
・少しずつでも使える言葉が増えている
・伝わらないとき、別の方法で伝えようとする
ただし、これらは「支援が不要」という判定基準ではありません。発達の経過を観察する際の大切な手掛かりです。
■早めの評価や支援を考えたい場合
次のような様子がある場合は、「もう少し待てば話すだろう」と長期間見守るだけではなく、乳幼児健診、かかりつけの小児科、耳鼻咽喉科、言語聴覚士、地域の発達相談などにつなぐことが望まれます。
・言葉の理解にも遅れが感じられる
・指差し、模倣、共同注意が少ない
・呼びかけへの反応が安定しない
・言葉や身振りによる意思表示がほとんどない
・語彙が数か月間ほとんど増えない
・強いかんしゃくがあり、伝わらない苦しさが大きい
・一度使っていた言葉が減った、または消えた
・中耳炎を繰り返すなど、聴力への心配がある
・運動、遊び、対人関係などにも発達上の心配がある
一般的には、1歳6か月頃に意味のある単語が見られない、3歳頃になっても二語文が見られないことなどが相談の目安の一つとされます。ただし、月齢の基準だけで診断することはできません。
また、「音には反応しているから聞こえている」とも限りません。片耳の難聴や、特定の高さの音が聞き取りにくい場合もあります。国立成育医療研究センターも、言葉の遅れがある場合には耳鼻咽喉科への相談を勧めています。国立成育医療研究センター「耳鼻咽喉科」
■表出訓練は必要なのか
支援が必要な場合でも、「言ってごらん」「もう一回」と何度も発音させることだけが表出訓練ではありません。
むしろ幼児期の言葉の支援では、子どもが伝えたいと思う場面をつくり、大人とのやり取りの中で、言葉が役に立つ経験を増やすことが中心になります。
ASHAは、専門家主導の反復的な方法だけでなく、遊びや日常生活を使った子ども中心の方法、両者を組み合わせた方法を紹介しています。必要に応じて身振り、絵カードなどの補助的なコミュニケーションを用いることも、音声言語の発達を妨げるのではなく、かえって自然な言葉を支える可能性があるとしています。
重要なのは、「言葉を言わせること」ではなく、「伝わった喜び」と「人とやり取りする楽しさ」を育てることです。
■家庭や療育でできる具体的な関わり
第一に、子どもが見ているもの、触っているものに言葉を添えます。大人が一方的に別の話題を与えるより、「車」「赤い車」「車、走ったね」と、子どもの関心に合わせる方が言葉と経験が結びつきやすくなります。
第二に、子どもの表現を少しだけ広げます。「ワンワン」と言ったら「ワンワン、いたね」、「水」と言ったら「お水、ちょうだいだね」と返します。誤りを強く訂正せず、一段階上の表現を自然に聞かせます。
第三に、すぐに先回りせず、数秒待ちます。指差し、視線、声、言葉など、子どもからの働きかけを待ち、それに大人が応答します。ただし、言えるまで物を渡さないような過度の要求は避けます。
第四に、絵本、歌、手遊び、ごっこ遊びを活用します。同じ言葉を意味のある場面で繰り返すことで、理解から表出への橋が架かります。
日本言語聴覚士協会の講習資料でも、「たくさん話しかけてください」という抽象的な助言ではなく、子どもが注目しているものに、オノマトペなどを使い、行動や発話に合わせて言葉をかけることが紹介されています。日本言語聴覚士協会「発達段階に合わせたことばかけ」
■支援をすれば、すぐに言葉が出るとは限らない
早期支援には意義がありますが、支援を始めれば必ず短期間で表出言語が増えると約束できるわけではありません。
RobertsとKaiserによる97組の幼児と養育者を対象としたランダム化比較試験では、養育者への言語促進指導によって、養育者の応答や言葉の広げ方が改善し、子どもの受容言語には小さいながら効果が見られました。しかし、広範な表出言語の指標では明確な差が確認されませんでした。Roberts & Kaiser, 2015
この結果は、訓練が無意味だということではありません。言葉の発達には時間が必要であり、理解、共同注意、模倣、やり取りといった土台から丁寧に育てる必要があることを示しています。
■「何もしない」か「訓練する」かではない
言葉の表出が遅い子どもへの対応は、「放っておく」か「厳しく練習させる」かという二者択一ではありません。
まず発達全体と聴力を確認する。理解や共同注意の状態を把握する。家庭と療育の中で、子どもが伝えたくなる経験を増やす。そして必要に応じて、言語聴覚士や医療機関などの専門家と連携する。この段階的な対応が大切です。
小金井市の療育・発達支援に取り組むスプラウツでは、表出された言葉の数だけでなく、子どもが何を理解し、どのように人と関わり、どのような方法で伝えようとしているかを丁寧に見ていきます。
言葉は、無理に引き出すものではありません。
安心できる相手と気持ちが通じ、「もっと伝えたい」と思ったときに育ち始めます。しかし、その芽が育ちにくい理由があるなら、ただ待ち続けるのではなく、適切な時期に環境を整え、専門的な支援へつなぐことが必要です。
早く相談することは、子どもに診断名を付けるためではありません。その子に合った「伝わる方法」を、少しでも早く一緒に見つけるためなのです。
【主な参考文献】
1.American Speech-Language-Hearing Association, “Late Language Emergence.”
2.Roberts, M. Y., & Kaiser, A. P.(2015)“Early Intervention for Toddlers With Language Delays: A Randomized Controlled Trial,” Pediatrics, 135(4), 686–693.
3.Hampton, L. H., Kaiser, A. P., & Roberts, M. Y.(2017)“One-Year Language Outcomes in Toddlers With Language Delays,” Pediatrics, 140(5).
4.National Institute on Deafness and Other Communication Disorders, “Speech and Language Developmental Milestones.”
5.国立障害者リハビリテーションセンター「健診での気づき」
6.一般社団法人日本言語聴覚士協会「乳幼児健康診査への言語聴覚士の関わり」
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