
「勉強に集中できない」
「すぐにシャープペンを分解してしまう」
「消しゴムを触ってばかりいる」
「必要以上にトイレに行きたがる」
「少し問題を解いただけで、別のことを始めてしまう」
学習指導の現場では、このような姿をよく見かけます。
保護者の方からも、
「うちの子は集中力がありません」
「やる気がないのでしょうか」
「家で勉強させても、すぐに違うことを始めてしまいます」
というご相談を受けることがあります。
もちろん、集中力の問題には性格や生活習慣も関係します。
しかし、子どもの行動をよく観察していくと、単に「やる気がない」「怠けている」という言葉だけでは説明できないケースが少なくありません。
たとえば、シャープペンをいじる、消しゴムを細かく削る、必要以上にトイレへ行く、椅子にきちんと座っていられない、問題を解き始めるまでに時間がかかる。
これらは一見すると「悪い態度」に見えます。
しかし脳科学的に考えると、こうした行動は、子どもの脳が学習にうまく入れないときに出している一種のサインとも考えられます。
集中力とは「気合い」ではなく脳の働きである
まず大切なのは、集中力を精神論だけで考えないことです。
集中力とは、単に「頑張ろう」と思えば出てくるものではありません。
脳の中では、注意を向ける力、余計な刺激を抑える力、今やるべきことを頭に置いておく力、途中で投げ出さずに続ける力などが複雑に働いています。
これらはまとめて「実行機能」と呼ばれます。
実行機能とは、目標に向かって行動を調整する脳の力です。ハーバード大学発達児童センターでは、実行機能と自己調整力を、脳の中の「航空管制システム」のようなものと説明しています。複数の情報を整理し、優先順位をつけ、行動をコントロールする働きです。
勉強では、この実行機能がとても重要になります。
問題文を読む。
何を聞かれているかを理解する。
必要な情報を頭に残す。
手順を考える。
途中で別の刺激に反応しない。
最後まで解き切る。
この一連の流れは、実はかなり高度な脳の働きです。
つまり、集中できない子は、単に「気持ちが弱い」のではなく、脳の実行機能がまだ十分に育っていなかったり、学習課題に対して脳の負荷が大きすぎたりしている可能性があります。
シャープペンいじりは「退屈」ではなく刺激調整かもしれない
集中力に欠ける子に多く見られる行動の一つが、文具の手いたずらです。
シャープペンを分解する。
芯を何度も出し入れする。
消しゴムをちぎる。
定規を曲げる。
ノートの端に落書きをする。
大人から見ると、「遊んでいる」「真面目にやっていない」と見えます。
しかし、子どもの脳の側から見ると、少し違う意味がある場合があります。
脳は、適度な刺激がないと覚醒レベルを保ちにくくなります。
特に、同じ姿勢で座り、同じような問題を続ける場面では、脳が退屈を感じやすくなります。すると、子どもは無意識に手を動かして、脳に刺激を入れようとすることがあります。
これは、脳が「今の状態では集中を保てない」と感じ、手を動かすことで覚醒を維持しようとしている状態とも言えます。
もちろん、文具いじりをそのまま放置してよいわけではありません。
シャープペンを分解してしまえば、学習は止まります。
消しゴムを削っていれば、問題に向かう時間は減ります。
しかし、ここで大切なのは、いきなり「やめなさい」と叱ることではありません。
なぜその行動が出ているのか。
問題が難しすぎるのか。
作業が単調すぎるのか。
不安が強いのか。
見通しが持てていないのか。
座っている時間が長すぎるのか。
その背景を見抜くことが必要です。
トイレに何度も行く子は「逃げている」だけではない
もう一つ、集中力に課題のある子によく見られるのが、必要以上にトイレに行く行動です。
もちろん、本当に体調面の問題がある場合もあります。その場合は医学的な確認が必要です。
しかし、学習場面で毎回のようにトイレへ行く場合、そこには心理的・認知的な背景があることも少なくありません。
たとえば、難しい問題に直面したとき。
何をすればよいか分からないとき。
間違えることへの不安が強いとき。
長時間座っていることが苦痛になったとき。
先生や保護者の視線から一度離れたいとき。
このような場面で、子どもは「トイレに行く」という形で、学習場面から一時的に離脱することがあります。
これは単なるサボりではなく、脳が負荷から逃れようとしている反応である場合があります。
大人でも、難しい仕事に向き合う前に、つい飲み物を取りに行ったり、スマートフォンを見たり、机の上を片づけ始めたりすることがあります。
子どもも同じです。
ただし、子どもの場合は自分の状態を言葉で説明する力がまだ十分ではありません。
「分からないから不安です」
「この問題は難しすぎます」
「何から始めればいいか分かりません」
「少し休まないと頭が働きません」
こうしたことをうまく言葉にできないため、行動として表れるのです。
集中力の弱さの背景にある3つの脳の課題
集中力のない子を脳科学的に考えると、大きく3つの課題が見えてきます。
第一に、注意を向け続ける力の弱さです。
勉強では、目の前の課題に注意を向け続ける必要があります。しかし、外の音、机の上の物、隣の人の動き、自分の空想などに注意が移ってしまう子は、学習の流れがすぐに切れてしまいます。
第二に、抑制する力の弱さです。
「今はシャープペンをいじらない」
「今は席を立たない」
「今は問題を最後まで読む」
このように、自分の衝動を抑える力が必要になります。CDCも、ADHDの特徴として、そわそわする、長く座っていることが難しい、衝動性があるといった行動を挙げています。もちろん、集中力がない子すべてがADHDという意味ではありませんが、注意・衝動・多動の問題は学習行動と深く関係します。
第三に、ワーキングメモリの弱さです。
ワーキングメモリとは、今必要な情報を一時的に頭の中に置いておく力です。
たとえば算数なら、問題文を読み、条件を覚え、式を考え、途中計算を保持しながら答えに向かいます。国語なら、文章の前半に書かれていた内容を覚えながら、後半の内容と結びつけて読まなければなりません。
この力が弱いと、子どもは途中で何をしていたのか分からなくなります。
すると、集中が切れたように見えます。
ADHDの子どもでは、ワーキングメモリや認知的コントロールに課題が見られるという研究もあります。
ただし、繰り返しますが、集中力の問題があるからといって、すぐに発達障害と決めつけるべきではありません。大切なのは、子どもの行動を細かく観察し、その子に合った学習設計をすることです。
「集中しなさい」では集中できない
集中力のない子に対して、最も効果が薄い言葉があります。
それは、
「集中しなさい」
です。
なぜなら、集中できない子は、集中の仕方そのものが分かっていないことが多いからです。
大人は「集中しなさい」と言えば伝わると思いがちです。
しかし、子どもの側からすると、
何を見ればいいのか。
どこから始めればいいのか。
何分続ければいいのか。
どこまで終わればよいのか。
分からなくなったらどうすればいいのか。
こうした具体的な手順が見えていないことがあります。
つまり、必要なのは叱責ではなく、集中できる形に学習を設計し直すことです。
改善策1:学習時間を短く区切る
集中力が続かない子に、いきなり60分、90分の学習を求めても、多くの場合うまくいきません。
まずは、短い時間で区切ることが大切です。
たとえば、
「10分だけ計算」
「5問だけ漢字」
「1段落だけ音読」
「3問だけ文章題」
というように、学習の単位を小さくします。
脳は、終わりが見える課題には取り組みやすくなります。
逆に、「たくさんやりなさい」「全部終わらせなさい」という指示は、見通しが持てない子にとって大きな負担になります。
集中力のない子ほど、短い成功体験を積ませることが大切です。
改善策2:机の上から余計な物を消す
文具いじりが多い子の場合、机の上の環境を整えるだけでも効果があります。
シャープペンを何本も置かない。
消しゴムを必要以上に大きなものにしない。
定規や付箋、遊びやすい文具を近くに置かない。
今使う教材だけを机に出す。
これは単純なようで、非常に重要です。
集中力の弱い子にとって、机の上の物はすべて刺激になります。
目に入れば触りたくなります。
触れば学習が止まります。
学習が止まると、再び戻るまでに時間がかかります。
ですから、「本人の意志で我慢させる」のではなく、「触りたくなる物を最初から減らす」ことが有効です。
改善策3:手を動かす学習に変える
文具いじりをする子は、手を動かすこと自体を求めている場合があります。
その場合、ただ「手を動かすな」と言うよりも、手を使う学習に変えた方がよいことがあります。
たとえば、
音読しながら指でなぞる。
問題文に線を引く。
図を描いて考える。
計算の途中式を必ず書く。
漢字を空書きしてから書く。
英単語を声に出しながら書く。
このように、手の動きを学習に結びつけるのです。
大切なのは、手いたずらを「禁止」するだけでなく、手のエネルギーを学習に向け替えることです。
改善策4:トイレ離席には先にルールを決める
トイレに何度も行く子には、頭ごなしに禁止するのではなく、先にルールを決めることが大切です。
たとえば、
「授業前に必ずトイレに行く」
「学習開始後20分は席を立たない」
「どうしても行きたい場合は、今の問題を1問終えてから行く」
「戻ってきたら、すぐに同じ問題に戻る」
このように、行動の枠を作ります。
特に大切なのは、トイレから戻った後の再開です。
集中力のない子は、一度席を立つと、どこまでやっていたか分からなくなることがあります。
そのため、離席前に「ここまでやった」という印をつける。
戻ったら「次はここから」と確認する。
この小さな工夫だけでも、学習の流れは大きく変わります。
改善策5:難しすぎる課題を与えない
集中力がないように見える子の中には、実は課題が難しすぎるために集中できない子がいます。
分からない問題が続く。
読めない文章を読まされる。
計算の前提が抜けている。
語彙が不足している。
前の学年の内容が定着していない。
この状態で「集中しなさい」と言っても、脳は学習に入れません。
集中力は、理解できる課題の中で育ちます。
難しすぎる課題は、子どもにとって不安と回避行動を生みます。
したがって、集中力を改善するには、まず教材のレベルを適切に下げることも必要です。
これは甘やかしではありません。
脳が処理できる段階まで課題を調整し、そこから少しずつ負荷を上げていく。
これが本当の意味での学習設計です。
改善策6:成功の終わり方を作る
集中力のない子にとって、学習の終わり方はとても重要です。
疲れ切って終わる。
叱られて終わる。
できなかった印象で終わる。
親子げんかで終わる。
これでは、次の学習に向かう脳の状態が悪くなります。
反対に、
「今日はここまでできた」
「昨日より早く始められた」
「途中で席を立たずに10分できた」
「文具いじりが少なかった」
「1問だけでも自力で解けた」
このように、小さな成功で終わると、脳は学習を嫌なものとして記憶しにくくなります。
集中力の改善には、叱る回数を増やすよりも、成功体験を積ませることが大切です。
聡生館が大切にしていること
聡生館では、集中力のない子を一律に「落ち着きがない子」とは見ません。
なぜ文具をいじるのか。
なぜトイレに行きたがるのか。
なぜ問題を始めるまでに時間がかかるのか。
なぜ途中で止まってしまうのか。
その行動の奥にある原因を見ます。
学力の問題なのか。
語彙の問題なのか。
処理速度の問題なのか。
不安の問題なのか。
ワーキングメモリの問題なのか。
単に教材のレベルが合っていないのか。
ここを見極めずに、ただ「集中しなさい」と言っても、子どもは変わりません。
集中力は、根性だけで育つものではありません。
環境、課題のレベル、時間の区切り、声かけ、成功体験、そして本人に合った学習設計によって育っていくものです。
集中力のなさは、伸びない証拠ではない
最後に、保護者の方にお伝えしたいことがあります。
集中力がないからといって、その子が伸びないわけではありません。
文具をいじるから、勉強に向いていないわけでもありません。
トイレに何度も行くから、やる気がないと決めつける必要もありません。
大切なのは、その行動をよく観察することです。
子どもの困った行動は、脳からのサインであることがあります。
そのサインを叱って消そうとするのではなく、なぜその行動が出ているのかを考える。
そして、その子が集中しやすい形に学習を整えていく。
それが、聡生館の考える個別指導です。
集中力は、生まれつき固定されたものではありません。
適切な環境と学習設計によって、少しずつ育てていくことができます。
「集中力がない子」ではなく、
「まだ集中の仕方を身につけていない子」と見ること。
そこから、子どもの学びは大きく変わり始めます。
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