
学力・人間力向上のためのブログ
-
2025/10/10
シリーズ第5回「“できる”を見つけて伸ばすスプラウツの眼」 ― 苦手克服よりも“得意発見”を軸にした支援方針。得意が自信に変わるプロセス ―
「できない」を見つめるより、「できる」を見つける
子どもたちが不登校や学習へのつまずきを経験したとき、多くの大人は「どこができていないのか」を探そうとします。
しかしスプラウツでは、その視点を少し変えます。
――この子は“どんなことならできるだろう?”
私たちは、子どもたちの中に必ずある「得意の芽」を探し、それを起点に支援を組み立てています。
なぜなら、人は**“できること”から再び立ち上がる**からです。
苦手克服より「得意発見」
教育心理学の研究では、「強み志向(strength-based approach)」が自己肯定感を高め、長期的な学習意欲を支えることが報告されています(Seligman & Csikszentmihalyi, 2000)。
一方で、「できない部分」を過度に指摘され続けると、学ぶ意欲そのものが低下することも知られています。
スプラウツでは、苦手の修正よりも得意を伸ばすことにエネルギーを注ぐ方針をとっています。
その子が得意な分野で成功体験を重ねることで、自信が生まれ、苦手への挑戦にも自然と前向きになれるのです。
「得意」は才能ではなく“感覚”から始まる
スプラウツの教室で「得意」とされるものは、必ずしも学力や成績だけではありません。
・手先が器用で工作が好き
・色彩感覚が優れていて絵を描くのが得意
・話を聞くのが上手で友達に安心感を与える
・デジタル機器の扱いが早い
・観察眼が鋭く、小さな変化に気づける
こうした“得意の感覚”をスタッフが見つけ出し、伸ばす場を設けることが、スプラウツの支援の特徴です。
「見つける」ための観察力
スプラウツのスタッフは、授業中の発言や行動だけでなく、休み時間や雑談の中にも「できる」瞬間を探しています。
たとえば――
・プリントを配るのを自然に手伝ってくれた
・他の子が困っているときに声をかけた
・絵を描くときの集中力がずば抜けている
こうした“何気ない行動”に、その子の強みのヒントが隠れています。
心理学者ハワード・ガードナー(Gardner, 1983)は、知能には多様な形があるとし、言語・論理・音楽・対人・身体運動などの**「多重知能理論(MI理論)」**を提唱しました。
スプラウツの支援もこの考え方に近く、子どもの中にある多様な力を尊重しています。
「できる」を伸ばすプロセス
スプラウツでは、見つけた得意を「活動」として形にします。
絵が得意な子には教室のポスター制作を、
パソコンが得意な子にはタイピング練習や教材づくりの手伝いを依頼します。
そのとき、スタッフは“評価”ではなく“依頼”として伝えます。
「これお願いしてもいい?」と頼まれることで、子どもは「自分は認められている」と感じるのです。
この経験が、他者との関わりと自己肯定感の両方を育てます。
自分の得意が人の役に立つとき、初めて“自信”に変わるのです。
得意を共有することで生まれるつながり
スプラウツでは、子どもたちが自分の得意を紹介する「できる発表タイム」や「ミニ展示」を行うことがあります。
工作や絵、プログラミング、アニメの模写など、テーマは自由。
お互いの得意を知ることで、子どもたちの間に自然な尊敬と関心が生まれます。
以前、ゲームのプログラム作りが得意な生徒が、他の子どもたちに「自分の作ったキャラを見せたい」と発表したとき、教室が一気に盛り上がりました。
その後、「私もやってみたい!」という声が上がり、そこから小さな共同プロジェクトに発展しました。
得意は人をつなぐ架け橋にもなるのです。
「評価される」から「信頼される」へ
スプラウツの支援では、「できたね!」と褒めるだけでなく、
「あなたに頼んでよかった」「助かったよ」と信頼の言葉をかけます。
それは、能力の評価ではなく、人格への承認です。
教育心理学者カール・ロジャーズ(Rogers, 1951)は、人間が成長するためには「無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)」が必要だと説きました。
スプラウツでは、得意を通じて“あなたは価値のある存在”というメッセージを伝え続けます。
苦手も「得意の影」として捉える
「苦手」は、実は「得意の裏側」にあることが多いのです。
集中しすぎて周囲に気づきにくい子は、裏を返せば深く没頭できる力を持っています。
言葉で説明するのが苦手な子は、視覚的な思考が得意な場合があります。
スプラウツでは、「苦手を矯正する」のではなく、「得意の形として理解する」アプローチを取ります。
それにより、子ども自身も「自分は弱点だらけの人間」ではなく、「得意の方向がちょっと違うだけ」と前向きに捉えられるようになります。
成長は“比較”ではなく“変化”で見る
スプラウツの指導方針の根底には、「比べない教育」があります。
他の誰かと比べるのではなく、“昨日の自分と今日の自分”を基準にする。
それがスプラウツ流の成長評価です。
たとえば、以前よりも「笑顔が増えた」「話しかける回数が増えた」「課題を自分から選べるようになった」――
こうした変化の一つひとつをスタッフが見逃さず言葉にして伝えます。
その積み重ねが、子どもにとっての**「自分は進んでいる」実感**となります。
おわりに:「得意」が未来をつくる
スプラウツは、“得意を見つける場所”であり、“得意を社会につなぐ場所”でもあります。
どんな小さな力でも、それを発見し、伸ばし、他者と共有できたとき、子どもは自分の存在を誇りに思うようになります。
得意が自信に変わり、自信が行動を生み、行動が成長を導く。
この好循環こそが、スプラウツが大切にしている“育ちのプロセス”です。
📚参考文献
-
Seligman, M. E. P., & Csikszentmihalyi, M. (2000). Positive Psychology: An Introduction. American Psychologist, 55(1), 5–14.
-
Gardner, H. (1983). Frames of Mind: The Theory of Multiple Intelligences. Basic Books.
-
Rogers, C. R. (1951). Client-Centered Therapy. Houghton Mifflin.
Category
カテゴリー
Archive
アーカイブ