
近年、不登校の児童・生徒数は年々増加し、文部科学省の調査でも過去最多を更新し続けています。不登校というと、小学校や中学校に入ってから突然始まるものという印象を持たれる方も多いかもしれません。しかし、実際に子どもたちと向き合っていると、不登校は決してある日突然始まるものではありません。
幼児期から続いていた小さな困りごとや、本人も周囲も「性格だから」「まだ小さいから」と考えて見過ごしてきた特徴が、学校生活という集団環境の中で大きなストレスとなり、不登校という形で表面化することが少なくありません。
私は、小金井市でフリースクール「スプラウツ」を運営し、多くの不登校や登校しぶりのお子さんと関わってきました。その経験から強く感じるのは、「もっと早く気付いていれば、もっと違う支援ができたかもしれない」ということです。
もちろん、ここで紹介する特徴があるからといって、必ず不登校になるわけではありません。逆に、何の特徴もなく学校へ行けなくなる子もいます。
大切なのは診断することではなく、「気付くこと」です。
今回は、発達心理学や児童精神医学などの知見も参考にしながら、未就学児の頃から保護者が日常生活の中で見ておきたいポイントについてご紹介します。
① 集団活動が極端に苦手ではありませんか
保育園や幼稚園では、友達との遊びや集団活動が日常的に行われます。
その中で、
・いつも一人で遊んでいる
・集団遊びに参加できない
・順番を待つことが極端に苦手
・ルールを理解することが難しい
といった様子が継続して見られる場合は、一度丁寧に様子を見守ることが大切です。
一人遊びが好きだから悪いということではありません。しかし、本人が集団に入りたいのに入れず困っているのであれば、その困り感に寄り添うことが必要です。
② 感覚の過敏さ・鈍さはありませんか
学校生活は、多くの刺激に囲まれています。
例えば、
・チャイムの音が苦手
・教室のざわざわした音が耐えられない
・服のタグを嫌がる
・特定の食感しか食べられない
・人混みを極端に嫌う
こうした感覚の特徴は、本人の努力不足ではなく、生まれ持った特性であることがあります。
こうした特性を理解しないまま学校生活が始まると、「わがまま」「我慢が足りない」と誤解され、本人の自己肯定感が低下してしまうことがあります。
③ 気持ちの切り替えが極端に苦手ではありませんか
遊びを終われない。
予定変更で泣いてしまう。
急な変更でパニックになる。
このような姿は幼児には珍しくありません。
しかし、小学校へ入学すると、一日に何度も活動の切り替えが求められます。
そのため、切り替えが苦手な子どもほど、学校生活に大きな疲労を感じやすくなります。
④ 感情を言葉で伝えられていますか
困った時、
「悲しい」
「悔しい」
「困っている」
と伝えられる子どもは、周囲も支援しやすくなります。
一方で、
・叩く
・逃げる
・黙り込む
・泣き続ける
という行動だけで気持ちを表現している場合には、感情表現を少しずつ育てていくことが大切になります。
⑤ 自己肯定感は育っていますか
「どうせできない。」
「ぼくなんか。」
「また怒られる。」
このような言葉を幼児期から口にする子どもは少なくありません。
自己肯定感は、「褒められること」だけで育つものではありません。
安心して失敗できる経験。
最後まで話を聞いてもらえる経験。
努力を認めてもらえる経験。
そうした積み重ねが、学校生活で困難に出会った時の心の支えになります。
⑥ 身体の動きにぎこちなさはありませんか
発達性協調運動症(DCD)という発達特性があります。
例えば、
・鉛筆がうまく持てない
・はさみが苦手
・縄跳びが苦手
・ボール遊びが苦手
・靴紐が結べない
これらは単なる「不器用」ではなく、発達の特性であることがあります。
学校では体育や図工、書字など毎日のように困る場面が出てきます。
⑦ 完璧を求め過ぎていませんか
100点でなければ泣く。
失敗を極端に恐れる。
挑戦しようとしない。
こうした完璧主義の子どもは、学校生活の中で「失敗できない」という大きなプレッシャーを抱えやすくなります。
挑戦することよりも、「失敗しても大丈夫」という安心感を育てることが重要です。
⑧ 睡眠や生活リズムは整っていますか
幼児期からの生活習慣は、脳の発達にも大きく関わります。
・寝る時間
・起きる時間
・朝食
・運動
・外遊び
これらは学力以前に、心と身体の土台になります。
朝起きられない生活が続くと、小学校以降の登校しぶりにもつながりやすくなります。
⑨ 家庭は安心できる場所になっていますか
発達心理学では、「安心基地(Secure Base)」という考え方があります。
子どもは安心できる場所があるからこそ、新しいことへ挑戦できます。
家庭は「できる子」を育てる場所ではなく、「安心して失敗できる場所」であってほしいと思います。
⑩ 保護者自身が疲れていませんか
最後にお伝えしたいのは、お子さんだけではありません。
保護者自身の心と身体の健康です。
子育ては決して一人で抱え込むものではありません。
困った時に相談できる人がいる。
地域に支援機関がある。
学校以外にも安心できる居場所がある。
そうした環境があるだけで、親子は大きく変わります。
スプラウツが大切にしていること
私たちは、「不登校になった子どもを支援する場所」である前に、「子どもたちの困り感を早く見つけ、一緒に考える場所」でありたいと考えています。
早く療育を始めることだけが目的ではありません。
早く気付き、その子に合った関わり方を見つけることが大切なのです。
子どもには、一人ひとり違った個性があります。
「困った子」と見るのではなく、「困っている子」と理解する視点を持つことで、関わり方は大きく変わります。
おわりに
子どもの未来は、幼児期の小さな経験の積み重ねによって育まれます。
今回ご紹介した10の視点は、不登校になるかどうかを判断するためのチェックリストではありません。
大切なのは、「この子は何に困っているのだろう」と保護者が立ち止まり、考えるきっかけを持つことです。
もし気になることがあれば、一人で悩まず、専門機関や地域の相談窓口に相談してください。
小金井市のフリースクール・スプラウツでも、不登校や登校しぶりだけでなく、未就学児からの発達相談や学習支援についてご相談をお受けしています。
子どもの可能性は、早く気付くことで大きく広がります。
私たちはこれからも、一人ひとりの個性を大切にしながら、「安心して育ち、安心して学べる環境づくり」に取り組んでまいります。
参考文献
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杉山登志郎『子どもの発達障害』
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杉山登志郎『発達障害の子どもたち』
-
岡田尊司『愛着障害』
-
ジャン・ピアジェ『子どもの心理学』
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レフ・ヴィゴツキー『思考と言語』
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文部科学省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』
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国立特別支援教育総合研究所 各種研究報告
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