>1.“勉強ができる子” は生まれつきなのか
「うちの子は頭が悪いんじゃないか」
「小さいころもっと勉強させておけばよかった」
塾の面談で、保護者の方からよく耳にする言葉です。
しかし、長年子どもたちを見てきて、私ははっきり言えることがあります。
勉強ができるかどうかは、才能ではなく “方程式” の問題である。
その子の「脳の状態」「思考のくせ」「学習環境」が掛け算になって、
結果として 現在の学力 が表れているだけなのです。
そこで、今日のブログでは、聡生館で大切にしている
3つの 「学力方程式」 を使いながら、
「勉強ができる脳」をどう作っていくのかを考えてみたいと思います。
2.第1の方程式:基礎学力の方程式
まずは、テストの点数や通知表に直結する 基礎学力。
これをシンプルに式で表すと、次のようになります。
基礎学力 = 理解力 × 思考力 × 学習習慣
① 理解力
教科書の文章や先生の説明を「意味として受け取る力」です。
・語彙の量
・文章をイメージに変換する力
・前後の文脈をつなげる力
こうした要素が土台になります。
② 思考力
理解した内容を使って、
「なぜ?」「どうしてそうなる?」 を追いかける力です。
公式を当てはめるだけの計算は、思考力ではありません。
・筋道を立てて考える
・条件を整理する
・別のやり方を比べる
こうしたトレーニングが必要です。
③ 学習習慣
どれだけ頭が良くても、
「問題に向かう時間」がゼロなら、学力は掛け算でゼロになります。
理解力が 80、思考力が 80、習慣が 0 の子は
80 × 80 × 0 = 0 になってしまう。
逆に、
理解力 60、思考力 60、習慣 60 の子は
60 × 60 × 60 = 216,000 と、数字で見ると大差がつきます。
勉強が得意な子は、「特別に頭が良い」からというより、
この3つの値がバランスよく高い のです。
3.第2の方程式:脳のコンディションの方程式
では、その「理解力」「思考力」「習慣」を支える土台は何か。
ここで出てくるのが、聡生館でいつも意識している 脳コンディションの方程式 です。
学ぶ力 = 脳の土台 × 学び方 × 学ぶ環境
(1)脳の土台
脳の土台とは、
-
睡眠
-
生活リズム
-
食事
-
感情の安定(不安・怒り・自己否定が少ない状態)
です。
このどれかが大きく崩れていると、
理解力と思考力が十分にあっても、
脳が本来の力を発揮できません。
よく、
「授業では分かっているのに、テストになると真っ白になる」
という相談を受けますが、
これは 土台の部分がマイナスに働いているサイン です。
(2)学び方
同じ時間勉強しても、
「ただノートを写しているだけ」の時間と、
「解き方の筋道を言葉にして整理している」時間では、
脳の伸び方がまったく違います。
ここには、
・インプットとアウトプットのバランス
・復習のタイミング
・自分の弱点分析
などの要素が入ってきます。
(3)学ぶ環境
・家の中に静かな学習スペースがあるか
・周りの大人の声かけが「比較」ではなく「応援」になっているか
・質問できる相手がいるか
これらは、すべて脳のコンディションを左右します。
4.第3の方程式:AI時代の学力方程式
さらに、これからの子どもたちが生きるのは AIと共存する時代 です。
そのときに求められる学力は、次の式で表すことができます。
AI時代の学力 =(知識 + 問い)× メタ認知
(1)知識だけでは不十分
AIは、知識をものすごいスピードで検索し、
私たちより早く、正確に答えを出します。
だからといって、人間が知識を持たなくてよいわけではありません。
知識がゼロだと、
AIが出した答えの意味を理解し、吟味し、修正することができない からです。
(2)「問い」を立てる力
AIが苦手なのは、
「そもそも何を聞くべきか」を決める部分です。
・このデータから何が言えそうか?
・どんな比較をすると違いが見えるか?
・本当に知りたいことは何なのか?
こうした 「問いのデザイン」 は、
人間の仕事として残り続けます。
(3)メタ認知
メタ認知とは、
「今、自分はどう考えているのか」
「どこでつまずいているのか」
「どう直せばよさそうか」
を、一歩引いた場所から見られる力です。
AI時代の学力方程式では、
知識と問いを、メタ認知が増幅する という構造になっています。
5.3つの方程式を現実の子どもに当てはめてみる
ここまで、
-
基礎学力の方程式
-
脳コンディションの方程式
-
AI時代の学力方程式
を見てきました。
では、実際の子どもたちにはどう当てはまるのでしょうか。
ケース1:テスト前だけ頑張る中学生
-
授業の理解力:そこそこある
-
思考力:応用問題になると急に止まる
-
学習習慣:テスト直前だけ急上昇
この場合、基礎学力の方程式では、
「学習習慣」が極端に小さいため、
全体の値がなかなか上がりません。
ここに手を入れるとき、
ただ「もっと勉強しなさい」と叱るのではなく、
-
毎日 30分だけ「脳のウォーミングアップ」として簡単な復習をする
-
終わったら、短い達成コメントをノートに書かせる
といった 習慣づくりの仕組み を付け加えると、
方程式の値が少しずつ上がっていきます。
ケース2:不登校で自信を失った高校生
-
脳の土台:生活リズムの乱れ、自己否定感が強い
-
学び方:そもそも「何から始めればよいか分からない」
-
学ぶ環境:学校との距離が生まれ、孤立感が強い
この場合、いきなり「基礎学力の方程式」をいじる前に、
まず 「学ぶ力=脳の土台×学び方×環境」 のうち、
「土台」と「環境」から整えていく必要があります。
・起床時間を毎日15分ずつ早める
・オンラインでもいいので、顔が見える人との対話を増やす
・「今日はここまでできた」という小さな成功を一緒に確認する
こうした積み重ねが、
やがて 「もう一度、勉強してみようかな」 という気持ちを生み、
基礎学力の方程式を動かせる状態にしていきます。
6.家庭でできる「方程式のチューニング」
「うちでは何から始めればいいですか?」
という質問もよくいただきます。
3つの方程式を全部完璧に整える必要はありません。
まずは、どこが一番小さくなっているか を一緒に探すことが大切です。
① 5分でできる脳の土台づくり
-
寝る前1時間は、スマホの光を浴びる時間を少し減らしてみる
-
「今日よかったこと」を親子で1つずつ口に出す
これだけでも、脳のストレス度合いは変わっていきます。
② 「問い」を一緒に楽しむ
-
ニュースを見ながら「どうしてこうなったんだろう?」と子どもに聞いてみる
-
勉強の問題を解いたあと「他の解き方はあるかな?」と話してみる
正解を当てることが目的ではなく、
問いを立てる習慣を共有すること が目的です。
③ メタ認知の種をまく声かけ
「なんでできなかったの?」ではなく、
「どこまで分かってて、どこから分からなくなった?」
と聞いてみる。
これだけで、子どもの頭の中に
「自分の考え方を振り返る視点」が育ち始めます。
7.聡生館で大切にしていること
聡生館の指導では、
今日紹介した3つの方程式を意識しながら、
一人ひとりの状況に合わせて 「どこから整えるか」 を一緒に考えています。
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テストの点数だけでなく、
子どもの表情・睡眠・生活リズムから「脳の土台」を見る。 -
ただ解説をするのではなく、
解き方の道筋を一緒に言語化して「思考力」を鍛える。 -
AIも活用しながら、
「自分で問いを立て、学び方を選べる力」を育てる。
こうした取り組みを通じて、
「勉強が苦手」「学校がしんどい」と感じていた子どもたちが、
少しずつ “学びのスイッチ” を入れ直していく姿 を、たくさん見てきました。
8.おわりに ― 方程式は変えられる
今日ご紹介した3つの方程式を、あらためて並べてみます。
基礎学力 = 理解力 × 思考力 × 学習習慣
学ぶ力 = 脳の土台 × 学び方 × 学ぶ環境
AI時代の学力 =(知識 + 問い)× メタ認知
どの式も、どれか1つがゼロになれば、結果はゼロになります。
しかし同時に、どれか1つを少し上げるだけで、全体が大きく変わる という希望の式でもあります。
「うちの子はもう手遅れかもしれない」
そう感じている保護者の方がいたら、
ぜひこの方程式を思い出してください。
脳は年齢にかかわらず、一生を通じて変化します。
学びの環境と方法を整えていけば、
子どもたちの中に眠っている力は、必ずもう一度動き始めます。
そのプロセスを、聡生館はこれからも
一人ひとりと一緒に歩んでいきたいと思います。
by Dr.Kazushige.O
一般社団法人自在能力開発研究所 代表理事 聡生館 代表
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